真夜中のエーデルワイスで

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2月15日、木枯らしが吹き。 祖父がこの世から去って早三ヶ月…―おれ、朝祈 ゆう(あさぎ ゆう)は小さな純喫茶店の店主として掃除をしている。 元々、この喫茶店は祖父のもの。 82歳まで経営をがんばった祖父が残した店をおれが継ぎ、経営をしているのだ。 二月の空は青く澄み渡り、裏庭を吹き荒らした木枯らしは裏口から外へ出たおれの肌を刺した。 ―…駅へ繋がる商店街。この店は賑わう商店街の人を避けながら通る事を嫌う人たちが利用する“裏道”に存在する。 店から眺めると、あわただしく歩く人やご年配の方。そして“隠れた名店”みたいな店を探してきょろきょろとあたりを見渡しながら歩く人…。 急ぎたい人からゆっくり静かに歩きたい人が店の前を通り過ぎる。 何人かはウチの店にも顔を向けている…ごめんね、あと一時間でオープンです。 それを諭したのか、店の前で足を止める人々も通り過ぎていった。 『みゃ』 足元で真っ黒の小さな猫が鳴く 「おーはよ、ケンさん」 そう言いながら小さな雄猫を抱き上げると可愛い家族は頬を擦り、表を見つめた。 祖父が亡くなる少し前に、店先で捨てられていた真っ黒な子猫。 猫が死ぬほど好きだけれどアレルギーで飼えなかったおれは、自身よりも小さな子猫が可哀想になって。 急いで懐で温めながらペット用ミルクを買い与えると、小さな黒猫はおれに懐いたのだ。 それからおれは、病院で色々飼うための準備をして 晴れてこの黒猫の事を「ケンタロウさん」と呼び、家族の様に可愛がっている。…因みに名付け親は幼なじみだ。 猫を飼えばアレルギーが治る人も居ると言うが、おれはそのタイプで…暫くはアレルギーに悩んだけど。 愛の力で乗り越えたところだ。 ―からん、からん ドアに取り付けた黒猫モチーフのベルが心地よい音を奏でた 「けんさん教えてくれたの?ありがとお」 ごろごろと喉を鳴らすケンさんは大人しく肩に座り、尻尾を振った。
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