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―祖父から譲り受けたこの純喫茶“エーデルワイス”は、エーデルワイスそのものが由来だと思うだろうが、
実は5年前他界した祖母が好きだった薔薇の品種名が由来となっている。
マスターも変わったことだし、営業再開を期に名前を変えようと思ったのだが、気に入っているからそのままにした。
店内はまあまあ広いが席の数は少なく、入ってまっすぐ行くと左手にカウンター席が5席。
その上には薔薇と蔦を模した二段のケーキスタンド。上には、これからおれが作る焼き菓子を乗せるんだ。
そして、階段を三段上がると最大で四名座ることが出来るテーブル席が三卓。
見事な薔薇の彫刻が模された古い円卓、猫足の椅子はくすんだ金色の足と深い緑の背もたれ。基本的に落ち着いた店内では、このくすんだ色も豪華に見える。
日をたっぷりと取り込む大き目の出窓にはハードカバーの分厚い本が並べられ、レースカーテンを留める青薔薇のタッセルが光を綺麗に跳ね返す。
出窓の左右には金でできた古い額縁に飾られた絵画が飾ってある。
その中は夕焼けの海を写した油絵、森と川の風景を写した油絵が各額縁に飾られていて、堅苦しい空間を和らげていた。
蓄音機やレコード、ビスクドール、有名なメーカーの食器なども含め店にあるものは、全て祖父が遺した趣味のものだ。
小さい頃からこの店で、アンティークに囲まれていたからかな。
これらの物はおれも大好きで見ていて飽きない。
…ただ、アンティークのドールは怖がるお客様もいそうだから、キッチン裏においてある。
おれは可愛いと思うけれど、嫌がるアイツを見ると好みは人それぞれだと痛感する。可愛いのになあ・・・。
「ゆうー、居ないのかー?豆と茶ぁ持ってきたぞー」
この底抜けに明るい声は―…噂をすれば陽輔か。
「居ないなら帰るぞーゆーーーーうーーーちゃーーーーん」
「いる、いるよ」
少し小走りで今にも帰りそうな客を引き止めに、おれは入り口へ向かった。
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