真夜中のエーデルワイスで

6/13
前へ
/13ページ
次へ
そして、今日もエーデルワイスの一日が始まる 店を開けると常連さん、そうでないお客さんで賑わい、手伝いに来た陽輔に感謝しあっと今に昼下がり。 そして客足の少なくなった夕方、一組の親子…120センチも無い小さな少女と背が高く若い母親が来店した。 偶に来るお客様だ。 空いている店内で、親子はカウンター席へ座った。 「テーブルも空いてますけど…大丈夫ですか?」 「ううん、いいのよ!私達いつも此処に座っていたの」 うふふと笑った母親は、メニューを見ないで「ホットココアとホットのダージリンと、チョコレートケーキを一つ下さい」とおれに注文してきた。 ああ…と入り口の冷蔵ケースを見る…売り切れだ。 「ごめんなさい…チョコケーキ売り切れちゃって…」 「やだ!!!チョコのケーキがいい!!!」 …突然、大きな声で駄々を捏ねはじめたのだ。 母親が慌てて静止をかけ他の商品を勧めるも…娘はおれの前で今にも泣きそうな顔で「いやだ」と駄々をこねている。 …店内には静かなジャズが蓄音機から流れる。 時に優雅で、時に激しくて…時に寂しげな、おれの大好きなジャズ。 「…ごめんなさいね…この子、ずっと入院しててね。 今日はようやく外出許可がでたの。 それで、すごくここのチョコレートケーキを楽しみにしてて…」 ぐずる娘を宥めた母親が、おれにそう謝ってきた。 「…すみません」 実際、少女の言葉は正しい…母親が謝る必要はない。 本来ならば こんな時間に切らせてはいけない定番商品。 オーナーになってから日が浅くて 感覚が掴めていないんだ 必死に泣くのを堪える少女の頭を数回撫で、おれは母親に頭を下げた。 …でも、母親は笑顔で「また二人できます」 そう言ってくれた。 帰る頃には、少女も笑顔に戻り、「またくるね、お兄ちゃん」 そう、いってくれた。 二人が見えなくなるまで、おれは外で頭を下げた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加