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「…ごめんなさい…すみません…チョコレートケーキ……」
「すみません、そんなつもりじゃ…
いつもこのお店には…おじいさんがやっていた時からお世話になって…本当、感謝しているの」
暖かい紅茶をポットからカップに注ぎ差し出すと、母親は冷えた手を温め、少し口に含んだ。
残り1杯程残ったポットにティーコゼーを被せて提供するのがこの喫茶店。
ゆっくり提供すると、“ありがとう”と小さな声で礼を言われた。
「葬儀場の関係があって木曜日が葬儀でね、明日から慌しくなると思うから、今日あの子と最後のおやつをしにきたの。居るかしらね…美季」
「…大丈夫、美季ちゃん…きっと居ますよ。だってお母さん大好きですから」
この間…生前、美季ちゃんが座っていた所へココアと自慢のケーキを置く。
ケーキの隣にはケンさんが丸まり、尻尾を揺らす。
スポンジにガナッシュが溶け込んでひとつになった 当店自慢の四角いチョコレートケーキ。
「…ごめんね、この間…出して上げられなくて…」
目に涙を溜めていたらしく、おれにハンカチを差し出してくれた美季ちゃんの母親。
「大丈夫よ、有難う」
その言葉が、目に広がる涙の様に、じわりと胸に染みた。
「一緒に食べてあげてください」と美季ちゃんの母親にも同じケーキを差し出すと、喜んで頂いてくれた。
「本当美味しい…美季ったらいつの間にグルメになっていたのね」
なんて笑顔で俺に声をかけてくれた美季ちゃんの母親は、おれと話を交わしながら一時間ほど滞在すると美季ちゃんの為に注文した分も完食して店を後にした。
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