蘭丸 始まりの恋

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 夕暮れ時の公園。  さっきまでさんざん砂をほじくりかえしていた大きなキジトラの猫が、 ぽてぽてと足元にやって来て毛づくろいを始めた。  ブランコの前にある鉄柵に腰をおろし、信じられないくらい柔らかい猫の姿を見下ろして、 榛原楓(はいばらかえで)はため息をついた。  中学3年生になってはや三ヶ月。  今日は春から受講日を増やした進学塾の日だったのだが、さぼってしまった。  膨らんだ鞄を抱えなおして、またふうとため息をつく。  猫は一瞬ぴくりと耳を動かしたが、楓の方を見向きもせずに今度は顔を洗い始めた。 「お前はいいよな。悩みがなくて」  無駄だとわかっていて楓は猫に話しかける。  猫は顔を撫でていた前足の動きを止め、くるりと顔を上げ楓の方を向いた。  赤い舌が出っぱなしになっている。 「なに、僕の言ってることわかるの? わかるわけないか、それよりお前舌が出てるよ」  楓がくすくすと笑うとニャアと鳴いた。
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