「家」

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 僕はマヤーと呼ばれている。沖縄の方言で「猫」のことを、「マヤー」と言う。中国語の「猫」を「マオ」と言うらしい。それが変化して「マヤー」になったそうだ。  ひどい話だよね。名前が「ねこ」って言われているのと同じ。犬に「いぬ」と名付けるようなものだ。  パパが名付けた。余程、面倒くさかったのかな?とにかく、ひどい。ひどいけど、嫌ではない。  僕は、娘さんが嫌いだ。仕事から家へ帰ってくると、僕を見つけるなり、そばに来て、嫌がる僕を抱きしめて頬をスリスリしてくる。どんなに嫌だと鳴いても、おかまいなし。ひとしきり、存分に僕をおもちゃにして、飽きたら放り出す。ワガママ娘だ。  僕は、ママが好きだ。いつも家に居て、面倒を見てくれる。不味いカリカリをきちんと食べれば、おいしい缶詰めを時々開けてくれる。トイレの砂も変えてくれる。不必要に、かまってこないママが好きだ。  でも、時々、ママは面倒くさい。僕がカリカリを食べていると、僕の背後に「きゅうり」を置いておく。僕が後ろを振り返ってみると、知らない僕は「きゅうり」を「へび」と見間違えて、驚いて飛び上がる。それを見て、ママはゲラゲラ笑っている。  ホントはもう、慣れちゃって「きゅうり」だとわかっているし、驚かない。ママが喜んでいるので、面倒くさいけど、驚いて飛び上がってみせる。  ママが「きゅうり」のイタズラをするときは、前の日に、たいてい、パパと喧嘩をしていた。まぁ僕なりの家族サービスが、ママを笑わせることかな。  僕は、パパが可哀相と思う。仕事から家へ帰ってきて、真っ先に風呂場へ行く、いや、行かされているのかな?「足がクサイから、まず洗ってきて」と、ママと娘さんに言われているから。僕もクサイと思う。鼻が曲がる匂いって、こういう匂いかもって思う。  パパが風呂から上がって冷蔵庫に、ビールを取りに行くと、時々ビールがない事がある。娘さんが飲んじゃうからだ。パパは怒りもせずに「しょうがないか」と一言呟いてから、庭に行く。タバコを吸うためだ。「タバコクサイから、外で吸って」と、ママと娘さんに言われてから、外で吸っている。僕もタバコはクサイと思う。  パパは、一服し終わると、あぐらをかいて食卓に着く。僕は、パパのあぐらの上が好きだ。まるまるのに丁度いいくぼみを、つくってくれる。パパが食事している間は、このあぐらの上が、僕の特等席だ。  
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