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心が躍った。
諦めかけてた夢が叶う。
サシャ・ヒューティアに会える(かもしれない)!
まん丸の目をキラキラさせた雅に見つめられて、おはぎ猫はつい視線を逸らした。
「……会わせてやってもいいのよ。ただね、会わせてあげるには条件があんの」
「なんでも聞きます」
「そうねそうね、そう言うと思ったわ」
「条件は何です?」
おはぎ猫は、細めた目を雅に戻した。それからゆっくりと前趾を組み直して、上体を僅かに伸ばした。
「サシャに会うかわりに、あんたはこれまでの記憶を一切失うことになる」
え──
雅は口をぽかんと開けて、そのまま絶句した。
これまでの記憶──
「生まれてすぐに捨てられたこと、拓海に拾われたこと、拓海と過ごした日々のこと、仲間ができたこと、その何もかも忘れる。あんたは新しい自分になって、アメリカでサシャに出会う」
おはぎ猫の言葉は、雅の耳には届いていなかった。
拓海。
いつも優しく呼び掛けてくれる。
拓海の部屋で一緒に音楽を聴いたり、DVDを観たり──音楽の素晴らしさを知ったのも拓海のおかげだ。
一緒に散歩したり、昼寝したり、遊んだり。どんなに遅く帰ってきても、たとえ拓海が眠った後だったとしても、拓海は必ず部屋の窓を開けてくれた。「おかえり」って言ってくれた。
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