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「……ンだよっ、このクソ寒ぃ時期にノミなんかくっつけてんじゃねぇよ!」
「てめーんち床暖入ってっからっていい気になってんじゃねぇ!」
「床暖にコタツとか、ゼータクなんだよっ!」
「ノミの卵に"どうぞ孵化してください"って言ってるようなもんじゃねぇか!」
「うっせぇぞてめぇら!」
一喝したのは、やはり政宗だった。政宗のひと声に、辺りは一瞬で静けさを取り戻した。コンビニの前を走る車のエンジン音が、ふわりと宙に浮いて消えた。身を固くする彼らのなかで蛍だけが、ぼりぼりと耳のうしろを掻き続けている。
政宗は鼻からふぅっと息を吐き出した。
「クイーンも行きそびれたしよ……」
「クイーン、いいっすね!」またもテツが食いついてきた。「えーとあれ、なんだったかなあ、なめこ蕎麦が出てくる歌」
「チープ・トリックも来るってぇのに」
眉間に皺を寄せてやれやれとでも言いたそうに首を横に振ると、そのまま政宗は目を閉じてしまった。
きっと今、政宗の耳には様々な音楽が流れているに違いない──輪の片隅からじっと政宗を見つめながら雅は思った。派手なギター、腹に響くベース、けたたましいドラム、がなりたてるボーカル。想像するだけで自然と体がリズムを刻んでしまいそうだ。
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