ねこめたる

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フィンランド生まれのそのギタリストは、長年日本に住んでいたこともあり、アメリカに活動拠点を移した今でも、年に2回は日本でコンサートを行っている。 サシャ・ヒューティア──彼の紡ぐギターは、ファンクでジャジーで、ジャンルとしてはヘヴィメタルらしいのだが、そもそもひとつのジャンルに嵌め込むことのできない、型破りなギタリスト。デビュー前はそのへんの公園で演奏していたというが、それは驚きであると同時に、その場に居合わせたかったという思いが雅の身を捩らせた。 彼の演奏を生で聴きたい。あの音のなかに、彼とともに埋もれたい。 年に2回の日本公演──だが、それは雅にとって、ひどく遠いものだった。 それはガンズの、ドームでのコンサートに想いを馳せる政宗と同様だった。 たとえ市内の市民ホールでコンサートが開催されるとしても、そこにさえ行くことは叶わない。ならばせめて、彼のようにギターが弾けたら── 雅は自分の手を見た。 淡いピンク色の肉球が、コンビニから漏れる光にほんのりと浮かび上がった。 この手ではギターは弾けない。 雅はがっくりとうなだれた。 コンサート会場にも行けない。 だって、 猫だから。 (ФωФ)
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