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彼は店内をぶらぶらと歩きながら商品を眺めていると一卓のナイトテーブルに目を奪われた。
――これは……。なんだこの色気の溢れ出る猫足は……。
相当古そうなのだが、艶のあるブラウンの天板は色を失っていない濃い木目を浮かび上がらせていた。小さな引き出しの金具は古さを感じさせず金色の光を放っている。そして、まるでうら若き女性の足のような魅力的な曲線を描く四本の猫足。
彼は一目でそのナイトテーブルに惚れ込んでしまったようだ。
「ご主人、このナイトテーブル素敵ですね」
「それですか……、少々曰くがありましてね、この話しをすると大抵のお客様は買わずに去ります。……お聞きになりますか?」
「そこまで言われれば気になります、話しを聞かせて下さい」
「左様ですか、そのナイトテーブルの作者は狂人と言われる部類でして、彼は満足する猫足を表現するために何匹もの猫を捕まえては足を切り落とし、その木の足に縛り付けたと伝わっています。多くの猫の血を吸った木が自然と曲がり今の形になった……と」
彼の額から一筋の汗が流れる。
「ご主人、そんな怖がらせないで下さいよ」
「その天板をそっと押してみてくださいな」
彼は言われるがままにナイトテーブルの天板をそっと押してみた。
すると、年老いた猫が苦しく鳴くような声が聞こえる。
彼は驚きビクリと手を放す。
「木の擦れ合う音なんですが、猫の鳴き声に聞こえるでしょ」
「ああ、少々驚かされたよ」
「どうされますか?」
彼はさんざん迷った後で買うよと一言告げナイトテーブルを購入した。
持って運べない大きさでもないし、家までそう遠くない。
彼はそのまま家まで持ち帰ったのだった。
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