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使用人宿舎の狭い給仕室で鍋を火にかける。煮立てたお湯を少し冷ますとセナはカモミールティにそれを注いだ。
器から優しげな湯気が上がっている──
香りを吸い込むようにして顔を近付けると給仕室の裏の小さな扉を誰かが叩いた。
「………」
こんな夜更けに?そう思いながらセナは覗き窓に張り付いて外を伺う。
そして慌てて扉を開けていた。
「ザイード様!? こんな時間に一体っ……─」
そう声に出したセナの口をザイードの大きな手が咄嗟に塞いでいた。
セナは驚いた目でザイードを見る。ザイードは声を潜めた。
「小声で話せ──いいな…」
セナは目で頷き返した。
黒装束で身を隠し、顔を覆うように頭から下がる布地を口元で押さえている。
外の気配を一旦探り、ザイードは半開きに開いた小さな扉の隙間から身を中に滑り込ませた。
その仕草はどう見ても夜襲に現れた賊だ。
「マナミはどうしてる?」
「風呂を上がって部屋に……今からここでお茶を一緒にと…」
「今から茶か……」
呟くザイードの瞳は少し視点が定まらず揺れている。ザイードは手にしていた小瓶をセナに握らせた。
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