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「部屋に連れていく──」
そう言って歩き出したザイードの後ろをセナも着いていく。ただ眠るだけの狭い部屋──
その前にくるとザイードはセナに扉を開けるように促した。
直接床に敷かれた低いマットレスにザイードは愛美をそっと横たわらせる。
寝かされた拍子にこてんと横を向いた愛美の頬にザイードは指先の甲で触れていた。
触れながらふと後ろの気配に気付く──
「もう用はない──」
「あ、はいっ…失礼しますっ…」
佇んでいたセナに背中を向けたままザイードはそう告げた。
慌てて扉を閉めたセナの足取りが遠くなっていく。
ザイードは耳に届かなくなったその足音を確めて愛美を見つめた。
日本人特有の童顔な顔だち。そしていつの日かからかったことのある、お世辞にも高いとは言えない鼻先を指で辿るとそのまま唇をなぞった。
“アーキルを好きになればよかった…”
「──……」
愛美の言葉が繰り返される。
ザイードの濡れた眼差しが切なく揺れ動いた。
「──…っ…何故アーキルに気を向けようとしたっ…」
掠れた声で眠る愛美に問い掛けた。
「お前を見つけたのは俺だ──…っ…アーキルじゃないっ…何故俺を求めないっ…」
自分が放った言葉に唇を歪める。
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