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「マナミにこれを飲ませろ──小指の爪半分の量でいい…茶に仕込め。いいな──」
「───…」
セナは手渡されたそれを見つめる。
「返事は」
「はい…」
白い粉の入った小さなガラス瓶。セナはそれが何の薬か聞くことができずにいた。
主人の言葉は絶対──
使用人であるセナが何か言える筈もない。何だかんだとザイードは愛美を大事にしている筈だ。
それは今までのザイードの取り乱したような行動で確認している──
そう悪い物ではないだろう──
セナはそう信じるしかなかった。
ザイードは瓶を見つめるセナの後ろに人の足音を聞いた。
「後でまたくる──…」
裏の戸口から足音の方を気にして目を配るとザイードは一言伝えて姿を消した。
闇に紛れるようにしてザイードの黒装束が翻る。
邸の壁に隠れて寄り掛かるとザイードは目を閉じて月を仰いだ──
少し薬が効きすぎている。
自分の鼓動の早さにザイードは苦し気な吐息を繰り返した。
これでマナミを思いきり抱ける──
少し気を抜いただけでザイードの頭の中は愛美で完全に埋め尽くされていく。
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