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「雪之丞……」
目が覚めてすぐに見つけたのは、傍らで冷たくなった黒猫の姿。
私は、確かに雪之丞の声を聞いた。
「お嬢様! 良かった! 一時はどうなるかと……!」
私が目覚めた事で、家政婦さん達が泣きながら崩れ落ちる。心配をかけてしまったんでしょうね。
「雪之丞が……」
「その猫、死んでしまったのですか?」
「私を、助けてくれたの」
起きようと、目を開けようとしても身体が動かない。真っ黒な闇の中に落ちていくような感覚の中で、雪之丞が私を呼んでいた。
『お嬢! 生きろ!』
あれは、確かに雪之丞だ。初めて聞いた声だけど、すぐに解った。
だって、ずっと傍に居たんだから。
慌てて駆け付けてくれたお医者さんが私を診察してくれて、「目覚めたのは奇跡だ」と驚いていた。
そして新しい薬の開発が進んでいる事を伝えられ、病が治る希望が見えてきた。
「雪之丞、私、生きてるよ」
私に残されたのは、雪之丞の首元に結んでいた赤い紐だけ。亡骸は庭の隅の土の中に埋められてしまった。
今でも私の耳には、あの雪之丞の言葉が残っている。
『お嬢が生きてさえいてくれたら。
それだけで、俺の命は価値があったと思える』
【終】
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