命の価値

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それは、屋敷内の見回りをしている時に突然起こった。 屋敷内の人間は俺とお嬢の関係を知っているから、手を出そうとする者は居ない。そう油断していたのかもしれない。 いきなり首元を掴まれ持ち上げられた俺は手足を動かして抵抗してみるが、人間相手には何の効果も無い。何とか首を捻って俺を捕まえた人物の正体を探ると、そいつはこの屋敷に奉公に来ている少年だった。 「悪いな。頼まれたからさ」 誰に、何を。尋ねたくても俺の声は人間には解らない。ニャアニャアと鳴き声を上げてみても「うるさい」と身体ごと振り回されるだけ。 何をされるのかはすぐに察した。奉公働きの少年は屋敷の敷地内から飛び出すと、まだ雪の残る近くの川へと辿り着く。そして氷水の中へ、俺の身体を落とした。 「お嬢様に見つからないように処分しろって言われたんだ。ごめんな、お嬢様の病の為だ。悪く思わないでくれよ」 身体中に突き刺さるような冷たい水の中、最後の少年の声が耳に残る。何とか泳いでみようとしても、氷水に手足の感覚を奪われ、流れに飲み込まれるだけ。 お嬢……お嬢の為……! 俺が居なくなるのがお嬢の為なのか。 その所為でお嬢が泣いても? 違う、こんなのはお嬢の為なんかじゃない! 必死にもがくが、猫の力はか弱い。流れに流され、川底へと沈んでいく。何て俺は無力なんだ。 息も出来ず、薄らと意識が遠のいていった。 普通の猫ならここで死んでいただろう。 でも俺にはまだ二つ命が残っていた。 目が覚めると丁度放り込まれた辺りの川岸に立っていた。この時ほど『生き返って良かった』と思った事は無い。何度死んでも『またか』としか思えなかったのに、だ。 .
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