露の命

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 目を開けると、そこには薄い青色の世界が広がっていた。  あんなに居心地のよかった世界はもうない。さっき、その世界は灰色に壊されてしまった。  あの世界から引きずり出されるとき、はじめて「痛い」と感じた。「痛い」「やめて」と言っても、やめてくれなかった。お腹についていたヒモも壁から外され、「私」だった体と一緒に置かれている。  私の体はどんな体だったんだろう。私の顔はどんな顔だったんだろう。ちゃんと全身を見たことがなかったから、何とも言えないが、きっと、お母さんに似ていたんだと思う。  そう、今目の前で私を見ながら泣いている女の人。この人が、私のお母さん。そして、薄い青色の恰好をした人が私とお母さんを引き離した人。  ねえお母さん。あなたがどんな理由で私と離れることを選んだのかは知らないけれど、 居たくて、痛くて、怖くて、悲しかった。  でもお母さん。あなたも私と同じなんだね。私と本当は一緒に居たくて、私と同じように痛くて、怖くて、悲しかったんだね。  お母さん。私たち、ほんのちょっとしか一緒にいられなかったけど、私ね、お母さんの中にいたとき、とても幸せだった。
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