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我輩は猫である。
というのは嘘で猫を飼う未熟な小説家。
学業を片手にありふれた話しか書けない無能が私だ。
ペンネームは梅川友利という。
つい最近まで名前は無く、母と相談した結果、今は亡き父の名前を一文借りて作った。
読書が好きになりつつあった小学生の頃に兄から贈られた本は、猫が主人公の話だった。
誕生日プレゼントのはずなのだけど、
中々渋いチョイスよね。
主人公は小説家の猫。
読んだら、凄く猫が欲しくなった。
小説家とは膝の上に猫を乗せて縁側を眺める職業だと思い込んだのかな。
それに、読書好きで夢見がちな私には堪らないシチュエーションだったと想像するに容易い。
少し経つと私の家に茶と白と黒が混ざった柔らかいものがやって来たの。
小さくて、とても細い。
お腹の白い毛が特に柔らかくて、
枕みたいで、羽みたいに肌触りがいい。
ぬいぐるみのようだと思ったけれど、
触れると、あたたかい。
小さい私は小さい猫をとても可愛がった。ニャーと安易な名前をつけて学校から帰ってくればすぐに可愛がる。
ずっと名前を読んだり撫でたりしていたら、ある日私から姿を隠した。
多分しつこいと思われたんだ。
『しばらく距離を置きまし
ょう』と、告げられたような恋人の気分だった。
恋人と言いつつも、
私の一方通行だったんだけど。
その時の私は嫌われたと思って
不安ばかりが、募った。
『このまま帰ってこなかったら、
どうしよう、私のせいだ。』
ってずっとぐるぐる思考が回ってた。
母や兄に泣きながら言った。
「帰ってこなかった、どうしよう」と。
小説の猫のように夜には帰ってくるよって私は宥められた。
夜、夕飯のあとくらいにガラス張りの古風な玄関がトントンと叩かれる音がした。
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