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ガラガラ音をたてて玄関を開く。
コートと荷物を自室に置きに行くとニャーが私の部屋で丸まっていた。
目を瞑って寝ているように見える。
「どうしたの」
私の声に三角の耳がぴくっと反応して目を開く。
真ん丸黒い大きい目はいつ見ても変わらず私を映している。
起きたと思ったら遅い足取りで部屋を出ていく。
なんだったんだろう。
私の目の前を通りすぎながら私を見つめてくる。映った私と目があった。
着いてこいってことかな?
脱いだコートと静電気を帯びたマフラーは適当に椅子に掛けて、ゆっくり後を着いていく。
引き戸の隙間を鼻を使って器用に自分が通る分だけ開けていく。隙間を通る度に、老いて痩せた体の細さが分かってしまう。子猫が、通ったくらいの幅しかない。痛々しい。
着いた先には縁側に続くガラス張りの引き戸。ニャーの目に月明かりが反射して私の目に届く。ガリガリと前足を戸に引っ掛けている。
「外は寒かったよ?」
返事はにゃーと細く鳴くだけ。
「仕方ないなあ」
寒い空気が家にあまり入らないように、素早く開けて、閉じる。
私が縁側に腰かけるとニャーは膝の上で丸くなる。
小学生の日課を思い出される。その時はもっとニャーが大きく感じた。
冷たい風が吹き付けても膝の上だけがあたたかい。受験勉強の時も閉め出しを食らった時もニャーはいい湯たんぽだったなぁ。
小さい頭を軽く撫でる。撫でる度に思い出が甦ってきて、心があたたまる。
「私はこのまま頑張っていたら報われるかな」
か細い鳴き声。
膝の上で顔が擦り付けられる。
「頑張ってたら報われるとニャーは思うのね」
ああ、私はこの味方無くしてどうやって生きていくのかな。
君が死んでから私はどうやって困難を乗り越えよう。検討もつかないよ。
時間が過ぎると、私の膝は冷たくなっていた。
君を膝に乗っけて、小説を書くのが夢だったんだ。
もうどうやったって私の夢は叶わなくなっちゃったね。
でも、君は頑張れば報われるって
最期に教えたんだから、
それを当分信じるよ。
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