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「ふうん……で、ご両親を安心させるために。と」
「……2日もしたら、ふられたって言っとくから。……その……悪かったな。1度くらい女連れてくれば安心するだろうと思ったんだよ」
吐き捨てるように言ったヤマトは少しだけすまなそうな表情をした。
偉そうな態度や不機嫌な表情は、こういうのを隠す為なのかも知れない。
いつのまにか私の周りに集まって来ていた猫たちを撫でながら言った。
「顔がいいのも大変ね。よかったわ、私。普通で」
ヤマトは私の顔をまっすぐに見て言った。
「アヤメはかわいい方だと思う」
「へ」
「あんまり、女の顔を見ないけど……かわいい方だと思う。例えば……今日、あそこにいた女の中じゃ一番かわいいと思うし、きっと一般的に見てもそうなんじゃないのか?」
「ええええ」
「顔が……急に赤いけど。どうかしたのか? 大丈夫か?」
コイツ、マジでバカだ。
「あ、あんたが急に変な事言うからでしょ」
「変な事じゃない。本当の事だ。それからアンタじゃなくてヤマトだ」
私は熱い頬を両手で押さえながら大きなため息をついた。
「あ!」
「なんだよ」
「早く帰らなきゃ。宿題あったんだ」
「宿題? ガキか」
「数学の宿題なの! おにいちゃんがバイト行く前に教えてもらいたいのよ、ああ。もう行っちゃったかなぁ」
「兄貴いるのか?」
「え? ああ、うん」
「ふうん……いいな、兄妹」
ヤマトはそう言いながら時計を見た。
「俺が宿題教えてやろうか?」
「え」
「俺、全国1位だから。学力テスト」
「……マジですか」
「すげーだろ」
「……」
「なんだよ。すごいって言えよ」
「いや。絶対いいたくない。なんかムカツク」
「……オマエ、やっぱ面白いな。ホラ出せよ。教えてやるって」
私はもそもそと鞄からノートと教科書を出した。
「あ。家に連絡だけしておくわ」
「ああ。そのほうがいいな」
私が電話をかけていると、マグカップを持ってキッチンに行きぬるくなってしまったコーヒーを温かいものに淹れ替えてくれた。
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