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「どうしたの?」
駅の改札を出て、駐輪場に向かうと中学の同級生に会った。
他にも見知った顔があった。私が首をかしげて皆の方に行くと、バスロータリーに設置されたペットボトル用のダストボックスを不安そうに指さしている。
「猫が、中にいるの」
「?」
「出してあげたらいいんじゃないの?」
「うん。そうなんだけどね、すっごい怒ってるし、ケガしてるし。下まで手が届かないからひっくり返そうにも重いし、蓋は鍵があって外せないのよ」
「……」
ステンレス製のダストボックスは押してゴミを捨てるタイプの箱で、くちの大きさはそれなりだから腕は余裕で入るけど深さがあるな……猫に届きそうにないわ。中を恐る恐る覗き込むと、恐怖と不安で興奮した比較的小さな猫がこちらを見あげてフーっと威嚇した。
「わ。ほんとね。怒ってる」
傍にいた男子学生が私と同じように覗いて情けない声を出した。ったく、男のくせに……そう思いながらチラリと見た。
「野良ネコって噛まれたりしたら、なんか病気になるんじゃなかったっけ?」
「ええ。知らねえよ。オマエんち動物飼ってるだろ、はやく出してやれよ」
「お前がやれよ」
「いや、オマエがやれって」
お笑い芸人のようにその役目を譲り合う男子学生くんたち……情けないわね。と、思っていると彼らは突然目を輝かせて手をふった。
「お! 大崎!」
「おお、丁度いい所に!」
濃紺のノーボタンの詰襟は袖口と襟から見ごろ中心で細い白の縁取りが2本してある目立つ制服だ。
「わ。王子だ」
「きゃあ! ちょっと」
うわ。不機嫌来そう、ええと、確かこの辺りの女の子は大抵知ってる王子様と呼ばれる子だ。名前なんだっけ……。
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