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「……何?」
「なあ、大崎。オマエんち獣医だよな?」
「だったらなんだよ」
「オマエも獣医になるんだよな」
「そうだけど、なんだよ」
苛立ちを含んだ返答に少し驚きながら彼を見た。
「ここ、猫が」
「……?」
めんどくさそうに溜息をひとつ吐き出すとダストボックスを覗き込んだ。
中からシャーっと威嚇する声が聞こえる。
雨上がりで濡れた路面を見て困ったような顔をした後で、すぐそばに立っていた私と友人を見た。
「おい、これ。持ってろ」
「えっ?」
私が驚いていると友人がぴんっと手を挙げて言った。
「あ、はい! 私が持ってます」
「……オマエじゃねーよ、こっちの女に持ってろって言ったんだよ」
「は? わ、わたし?」
彼は眉間に皺を寄せた。
ちょっと、その表情は私がするべきものじゃないの? と心のなかで突っ込んでみる。
「そうだよ、聞こえなかったのかよ」
「き……聞こえました」
「じゃあ、ほら。持ってろや」
上から! なんて上からなんだろう!
私がそう思いながら不貞腐れ気味に彼の鞄を受け取ると友人が小声で言った。
「いいなぁ、王子の鞄持てるなんてアヤメ幸せじゃん」
「はぁ? どこが? ってか、何で上から」
制服の袖を捲りながら彼はこっちをチラっと見た。
あ。やば!
聞こえてたよね……聞こえましたよね……まあいいか。
「……うるせーな」
さすがに、その呟きにカチンと来てしまった。
「ってか、アナタねえ。うるせーな、はナイでしょ?」
「……」
「人に物を頼むのに、持ってろやって。アホかっての。持っててくれる? とか言えないわけ?」
「ちょ。アヤメ」
彼は私を上から下まで値踏みをするように見てる。うわ! 最悪!
「それから、その態度。私を値踏みしてるのか知らないけど、冗談じゃないわよ。言えるほどいい女でもないけど、アンタにその価値はあるの?」
彼は目を見開いた。
「アヤメってば。やめなさいよ」
殴られるか? そう思ったけど彼はクルリと背を向けてダストボックスに腕を差し入れた。
物凄い声で怒りを顕わにする猫は箱の中で暴れていた。
「……大丈夫だ。よし、いい子だ」
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