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箱の底を覗きながら囁くように言って一瞬微笑んだ彼にドキンとした自分に焦る。
「……」
私が、ぼんやりと彼を見ているとチラリとこっちを向いて言った。
「おい、オマエ。鞄の中から、Tシャツ出せ」
「え」
「猫、暴れるから包むんだよ。早くしろ」
「あ。はいはい」
鞄の中チャックを開けると、きちんと畳まれたTシャツとタオルが見えた。
しかし、なんて偉そうなのかな。腹立つなぁ。
「Tシャツでいいの?」
「タオルじゃちょっと小っせえかも知れないからな。よし、よこせ」
「あ。はい」
あ……男の子の匂いだ……そう思いながら言われるがままにTシャツを取り出して渡した。
いつもなら男の子の洗濯していない服を触るのは弟の物でさえ躊躇するのに、それは不快ではなく、何だか落ち着くような不思議な感覚の匂いだった。
「……よしっと……」
彼のTシャツに包まれた猫様は小さく、恐ろしいのか小刻みに震えた。
「……オマエ、荷物持って、ついてこい」
「……」
猫を腕の中に納めるように抱いている彼を見て文句を言えるような状態ではない。もうなんでもいいや、この人に何か言ってもダメだわ。
「私も行こうか?」
友人をそういうが早いか彼はキッとそちらを見て冷たい口調で言った。
「……オマエは頼んでねえから」
「! ア。アヤメ。また、ね」
友人の目がこの後にが詳細を伝えろと言っていた。
私は大きく頷きながら返事をする。
「またね。連絡する!」
「うん!」
あー、なんで私なの!
帰りたい! 帰りたい!
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