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「……なんだよ」
「え、すごいなと思って……ちゃんとこの子のこと観察してたんだって」
「当り前だろ」
「……そっか」
彼のお父さんらしき白衣の男性は優しい笑顔を私に向けた。
「ヤマトの彼女?」
「え!」
「そうだよ」
おいい!
いつから私はアンタの彼女になったんですかい? 知らんがな!
と。盛大に突っ込みながらも口をついて出たのは
「え!」
と言う。文字ひとつ。
「そうかぁ。安心したよ……こんなかわいい彼女がいたなんてなぁ」
私がアワアワとしていると、白衣の男性は診察台の上の猫を見た。
「うん。大丈夫……足は、脱臼じゃないな。捻ったのか……骨にも異常はなさそうだ。すぐ直ると思うよ。爪はかわいそうに、上がろうと思ってたんだなぁ。処置して寝かせるから、いいよ。ヤマトは彼女にお茶でも出してあげなさいよ」
彼はホッとしたように猫の頭を撫でた。
あーほら、動物にはやさしいのね。
「よかったな」
にゃ。っと小さく鳴いた猫に優しく微笑んだ。
よかった、猫様なんともないのね。と、小さく安堵のため息が漏れる。
「……じゃあ。あとはよろしく」
笑顔で頷いた彼のお父さんを見て、どうしたらこんな素敵な笑顔の人からこんな高飛車な人間が出来るのだろうと考える。
「あ。えっとよろしくお願いします」
「はい、おませて……ごゆっくり……えっと、お名前」
「あ! アヤメです。品川アヤメといいます」
「綺麗な名前だ。うん。ヤマトは愛想ないけど優しい子だからよろしくね」
人の親の事は悪く言いたくないけれど、お母さんが最悪なのかもしれない。と思いながら玄関の方へ向かうと声がかかった。
「おい」
「!」
驚いて振り向くと手招きをした。
「お茶ぐらい出してやる」
「へ」
「早く来いよ」
「あ、はい」
言われるがままに後をついて行ったが、優しい子というお父さんの単語に疑いを持たずにいられなかった。
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