電話応対

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「案外、顔が見えてたら、今みたいに困ってなかったかもな。あの人、結構イケメンだから」 「へえ、そうなんですか。あ、ちなみに、マッチョですか?」 「は? なんだよおまえ、マッチョ好きなのか?」 「単なる確認です。電話の相手がどんな方か、いつも想像してますから」 ふーん、と速水さんは興味深そうな顔をした。 「……まあ、でも、想像に止めておいた方が楽しいかもな」 教えてくれないんですか、と言おうとして、やめた。それも一理あるか、と思ったから。 「お客さまも、私の顔が見えてたら、誘ってくれなかったかもしれませんね」 顔が見えないからこそ、きっと、想像や興味が膨らむのだ。 「はは、確かに」 「そこは否定してくださいよ」 口を尖らせると、速水さんは目を棒のように細めて笑った。 「ま、何とか断っておくから、気にするな」 そう言って彼は、自分のパソコンの方へ向き直った。 机の上には、たくさんの書類が積まれている。 その書類の山を見た私は、忽ち申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 ただでさえ忙しいのに、余計な手間を取らせてしまった。 それに、お客さまにも申し訳なかった。 私が上手に断っていたら、それで話は終わっていたのに。 自己嫌悪に陥り、大きなため息を吐く。 すると速水さんは、再びこちらに顔を向けた。
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