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某有名大学の門を潜った先、古びた建物が並ぶそのうちの一つ。ノスタルジック且つ、レトロな造りの図書館に駆け込み、窓際の椅子に腰を掛けて文庫本を読み漁る。
書斎と化したその空間には古書が放つ、紙とインクのツンとした匂いが充満する。
その香りを嗅ぐように鼻で大きく息を吸い込み、すぐ側の窓から覗く青空を見上げる。
僕は読書が嫌いだ。
昔から文章を読むのが苦手なのだ。
いや、正しく言えば読んだ文章を想像するのが下手なのだ。
それを誰かに言おうものなら、「最近はそういう子が増えていますよね」と大抵返って来る。
それに僕は愛想笑いを一つ返す。
僕が生まれたのは平成の一つ前、昭和という時代。
紙媒体の情報がほとんどで、それ以外にはブラウン管に写る映像やラジオ、或いは信憑性の乏しい近所の噂話ぐらいしか情報を得られない。
そんな時代に生まれながら、目にした文字を映像化するのは幼い頃から苦手だった。
それなのに僕はなぜか昔から図書館が好きだった。
夏場は空調が利いていて涼しかったという理由もあるが、どちらかといえばあの空間を満たす独特の香りが好きで毎日のように通った。
専ら絵本や美術系の絵画などが描かれた本を読み漁る。文字が書かれていたとしても、英語やフランス語などの絵本。
かといって字が書けない、というわけではなかった。
幼稚園にも小学校にも通い、カタカナも平仮名も漢字も書けた。その中でも漢字は得意な方だった。
だが、中学になっても僕は文章が読めなかったのだ。
それぞれの単語の意味は把握できても、それを連ねたものが何を意味するのか。またその状況がどんな図なのか、まるで分からなかった。
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