文明

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文明

黒い空は雨雲より暗く、夜よりは明るく、そこからたまに射し込む光が廃墟と化した5角形の巨大な建物を照らす。その建物の屋上に、階級の高そうな軍服を着た男とスーツの男がいた。 軍服の男は肩から下げた鞘に刀をさしてある。 「ハイル、ヒトラー」 スーツの男が右手を斜めに真っ直ぐ伸ばして軍服の男に言う。 「その合言葉は飽きた。新しいのを考えろ」 軍服の男はだるそうに言うと、胸ポケットから煙草を出した。煙草は口に加えられると勝手に着火する。 「ランマース軍曹」 「あ」 軍服の男は煙草を太い腕から生える大きな手で口から放し、鼻から主流煙を噴いた。 「ケストナー様がお帰りに」 「……予定より早いな」 軍服の男は左の袖を捲ると、腕に赤く光って表示される電子時計を見て煙草を捨てる。 射し込む光が消え、2人の顔が隠れると、2人の暗い服は汚れてコケの生えた屋上にカモフラージュした。 スーツの男は、暫く沈黙する軍服の男へ返事を待った。 「……すみません」 すると、軍服の男が口を開いた。 「……追い払え」
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