269人が本棚に入れています
本棚に追加
/116ページ
*
「ああ言う親だから、こういう子供になるんだって」
そうね、とも言えず、愛由美は和希を睨みつける。
「大体! 武藤くんからしたら、私なんかおばさんでしょ! なのになんで私なの!?」
和希は頬杖をついたまま、じっと愛由美を見つめる。
「武藤くんなら、もっと可愛くて、歳も近い子がいくらでも……!」
「俺は愛由美がいい」
はっきり言われ、愛由美は背筋を伸ばしたまま固まる。
「初めに言ったろ。最初はからかい半分だった、でも会ううちにどんどん愛由美が好きになった」
この時二人は気付いていない。両隣のテーブルの客が聞き耳を立てている事に。
「俺しか知らない愛由美がいる、それだけで興奮した。本当に好きになったんだからいいだろ」
「良くないから、言ってるの」
愛由美は頭を抱える。
「俺が好きなんだろ?」
頬杖をついたまま、傲慢に言う。
「もう、なんでそんな自信満々なのよ」
「さっきだって、嫌いじゃないって」
「好きとは言ってない!」
「そんなこと言ってると、またお仕置きだぞ」
言われて、ぐっと押し黙る。
「お仕置き、楽しみなんだろ」
組んだ腕をテーブルに乗せ、身を乗り出し囁くように言う、それだけでも色気のある仕草だった。
思わず愛由美は視線をそらす。
「は、晴真はもっと、優しかった……っ!」
「当たり前だ。和希だってバレたくなかったし、お前口説くために必死だったからな」
両隣のテーブルの客は、ちらちらと二人の様子を伺い見る。
和希の方が若いのは判るが、そんなに年の差がある様には見えない。ごく普通の痴話喧嘩の様に見えて、男ばかり四人の左側のテーブルの面々は、あからさまに興味津々だ。
「……そんなに本気だって言うなら、もっと早く言ってくれたら良かったのに……」
「そうしたら、俺のものになったか?」
「ならないけど……」
「じゃあ、いいじゃねえか。ここまで抵抗されるなら、ずっと騙しておきたかったくらいだ」
「もう……っ! 私なんかの何処がいいの……!」
愛由美は小さな声で怒鳴る様に言うのを聞いて、和希は頬杖をついたまま語り出す。
「そうやって困ってる顔もいいし、笑顔が可愛いとことか、何にでもすぐに感動して、口癖が「凄い」ってところとか」
最初のコメントを投稿しよう!