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「騙したことは謝る。でも晴真も和希も愛由美が好きだ。この先も、お前と一緒にいたいって思ってる。ちゃんと考えてくれ。そのネックレスの意味は半端な気持ちじゃない」
意味もなく「でも」と言いたい愛由美の言葉を、和希の目が否定していた。
愛由美のためらいなど、和希には無用なのだとはっきりと判る。
(好きになったのは、私だ……っ)
愛由美は涙ぐみ、ゆっくり、小さく頷いた。
それを見た男四人組が、揃って小さな拍手をしてくれた。
カップルも笑っている。
四人組の一人が和希にハイタッチを求め、もう一人は「お祝い」と言ってビールのジョッキを差し出したが、それは和希は断っていた。
「……後で、文句言っても聞かないからね……っ」
負け惜しみで言う。
「これまでも散々文句は言ってるだろ、これ以上どんな文句が出ると思ってるんだ」
「もう……生意気……」
ポロポロと泣き出した愛由美の頭を、和希は優しく撫でた。
(年下のくせに)
大きくて温かい手が心地良かった。
「クリスマスは、イルミネーション、一緒に見に行くんだろ?」
優しく言われ、愛由美はこくんと頷いた。
「仕事、早く片付けろよ?」
愛由美はまたもや、こくんと頷く。
「大体、愛由美もいい歳なんだから、今俺を逃したら、後はないんじゃないか?」
突然居丈高な物言いで言い出す和希。
「う、うるさいなっ」
「好きって言えよ」
愛由美は悔しさから、下目遣いで睨み付ける。
それすら男を誘うとも知らずに。
「……絶対言わないっ」
和希は片眉を上げ、「ああ?」と凄む。
「いい度胸だ、あとで覚えておけよ」
和希は頬杖をついたまま、いつもように意地の悪い笑みを浮かべた、その眼鏡の奥の瞳はやさしく微笑んでいた。
(悔しいから、今は言わない。今は、ね)
愛由美はそっと和希の手を取って、微笑んだ。
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