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「ごめん。だから…もう、泣かないで」
ふわりと抱きしめられた。
泣いてなんかいないのに、浩太郎は罪悪感を感じているのかそんな事を言うから。
「…こうたろ、私…泣いてないよ」
浩太郎の腕の中で言葉を返した。
トクトクと浩太郎の鼓動が伝わってくる。
触れている身体から私の想いが伝わればいいのに。
浩太郎の手が背中を優しくさする。
「響」
小さな声で呼ばれた名前は私の胸を締め付けるほど優しい声で、後頭部を撫でる手に擽ったい気持ちになる。
「ここには、もう来ないよ。だから…響は、あの人と幸せになって」
私の髪にキスを落として、部屋から出て行こうとする浩太郎の後ろ姿を黙って見つめる。
ねぇ、浩太郎。
どうしてこんなに優しくしたの?
私のこの気持ちはどうすればいいの?
待ってよ、浩太郎。
好きだよ、浩太郎。
1人にしないでよ、浩太郎。
冷たいドアが閉まった瞬間、私の世界から浩太郎がいなくなった。
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