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突然立ち上がった浩太郎が「帰るわ」と一言落とした。
見上げてもこちらを見てはくれなくて、遠くを見ている浩太郎の視線はどこか冷たく感じる。
「体調悪くなった」
嘘、だと解った。
私がいるからだ。
私がいるから…浩太郎は帰るんだと思った。
私は慌てて出て行く浩太郎を玄関まで追った。
「こうたろ…」
「何?」
ドアに手をかけたまま、浩太郎は振り向いてもくれなかった。
「…大丈夫?」
「あぁ。それだけ?」
浩太郎の低くて冷たい声に、それ以上何も言えなくなった。
「じゃあ」
微かに浩太郎の香りだけを残して、重たいドアが閉まる音だけが冷たく響いた。
リビングからみんなの笑い声が聞こえてくる。
神様。
時間を巻き戻せるなら…もう一度、あの夜に戻してください。
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