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「使ってくれてるんだね」
エレベーターの中で彼の視線が私の首元に落とされる。
私は首に巻いたストールに手を添えて渡辺さんに笑顔を向けた。
「あ、はい。すごく暖かいです」
「嬉しいよ。プレゼントした甲斐がある」
自動ドアを出てエントランスを抜けると、ヒュルリと冷たい風が私の髪を巻き上げた。
「僕も飲みたいから…車、置きに帰ってもいい?」
「あ、はい!」
渡辺さんの指がリモコンに触れると黒い高級車がハザードランプを点滅させている。
車の方へ近付いた時、何気なく視界に入ってきた後ろ姿にもう一度視線を戻した。
浩太郎…?
な、訳ないよね。
頭までフードを被っているトレーニングウェアらしき服装の後ろ姿を眺める。
背格好が似ているだけ、か。
浩太郎の自宅からここまではかなり距離がある。
それに、こんな所に来る訳がない。
あの日、浩太郎は『もうここへは来ない』そう言ったのだから。
頭の中がまた浩太郎でいっぱいになりかけた時。
「響ちゃん?」渡辺さんの声に引き戻された。
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