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遠くの空を眺めていたら、ふとさっきの後ろ姿を思い出して、無意識にまた浩太郎の事を考え始めた。
体調、大丈夫だったかな?
今日の機嫌が悪かったのは私のせいかな?
答えの出ない疑問がいくつか湧き上がる。
「考え事…?」
声と同時にガラス窓に渡辺さんが映って振り返る。
私が言葉を返す前に、穏やかな表情で窓の外を見上げた彼の横顔を見つめた。
「今夜は星が見えるかもね」
「…そうですね」
「響ちゃん」
「…はい」
「僕の勘違いだったら、ごめんね。響ちゃんの好きな人は……幼なじみの彼?」
「……っ、ち、違います」
手をぎゅうっと結んで鞄を握りしめる。
渡辺さんはずっと遠くを見ていて、こちらを向かないでいてくれた事だけが私には救いだった。
「…そっか」
足元に視線を落としていたら、渡辺さんの手が視界に入った。
「手」言いながら私の左手を掬い取ると渡辺さんはそこに自分の手を重ねた。
顔を上げると彼は眉を下げて小さく笑う。
「響ちゃんが誰を好きでもいいと思ってた。だけど、今は違う。僕だけを見て欲しいと思ってる。僕なら…響ちゃんにこんな悲しい顔は絶対にさせないのに」
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