episode.6

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あれだけ長い時間をかけてきたから、私の頭はそう簡単には浩太郎を忘れさせてくれなかった。 それは、ふとした時に思い浮かぶ。 瞼を開けて今にも雪が降りそうな空を見上げた。 映画の回想シーンのように、雪の降ったあの夜が浮かんでくる。 白衣の上から自分の肩を抱きすくめた。 浩太郎に抱かれた夜を思い出すと胸がチクリと痛む。 『響』 私の名前を呼ぶ掠れた声。 肩に触れた手も、重なった唇も、髪を撫でる癖も、笑うと目尻に入るシワも、私の好きな香りも。 簡単に忘れてしまえればいいのに。 「響先生?」 並木先生の柔らかい声が私を現実に引き戻した。 「あっ、すみません」 「お疲れ様。鍵、頼んでもいい?」 「あ、はい」 「響先生も帰ってゆっくり休んでね。また来週」 「はい、お疲れ様でした」 並木先生から鍵を受け取り、白衣を脱ぎながら診察室を出て行く後ろ姿を見送った。
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