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鍵をかけてクリニックを出る。
空からはらりと落ちてきたみぞれ混じりの雪が私の頬を濡らした。
『今日は夕方以降雪が降るかもしれません』
朝の天気予報はどうやら当たったみたいだ。
『バカ響』
いつまでも残っている声を消そうとイヤホンを入れて歩き出した。
雪を見るたびにきっと、私はこうして浩太郎を思い出すのだろう。
始めて抱かれたあの夜を。
「はぁ…」
私の吐いた小さな溜め息が白く濁って消えていく。
代わりに降ってくる冷たい雪が、まつ毛に止まった。
瞬きをすると水分になって頬を伝って流れ落ちた。
ポケットの携帯が震えて取り出すと、渡辺さんからのメールだった。
日曜日の引越しの時間と、新しい住所が記載されている。
それに “ 解りました ” とだけ返信を返して、またポケットにしまって歩き出した。
駅の人混みに似ている後ろ姿を見つけると、視線が勝手にそちらに向かってしまう。
そんな自分に溜め息をこぼしながら自宅に帰った。
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