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「…先生、響先生」
「あぁっ、ご、ごめんなさい」
「先生どうしたんですか?ぼんやりして。体調でも悪いんですか?」
「あ、いえ、違います。すみません、ちょっと考え事してました」
素直にそう答えると、婦長の木本さんが怪訝そうな顔で私を見たあと小さく溜め息を吐いた。
「ならいいですけど。そろそろ患者さんいらっしゃる時間ですよ」
「あ、はい」
小さな声で「まったく…」と言いながら診察室を出て行く木本さんの膨よかな後ろ姿を目で追いかけて、その先にある大きな窓に視線を移した。
今にも泣き出しそうなグレーの空は、私の心と似ている。
「はぁ…」
溜め息を吐きながら腕時計に視線を落とす、タイムリミットまであと5分。
勢いよく窓を開けるとカーテンをパタパタとなびかせた冷たい風が、色気のない白衣の隙間から入ってきた。
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