過去の記憶

5/12
前へ
/26ページ
次へ
僕はその知抄の顔を見つめた。 僕の知っていた彼女より少しだけ大人の女性に見える。 (何?私の顔に何か付いてる?) (いや・・ 綺麗になったと思って) (やだ、前はブスだって思ってたんだ) (違うよ、君は前から綺麗だった。 でも僕が君を好きだったのは、君の優しさや可愛らしさだったんだ) (そうなの?) (覚えてる? 僕達が初めて出会った頃の事) 僕はまだ小学生だった頃を思い出す。 あの頃僕の家は知抄の家と向かい合うように建っていた。 だが僕は、知抄が真ん前の家に住んでいた事を知らなかった。 僕の父は外交官であちこちの国へ転勤が多かった。 僕が生まれた時、父はアメリカ大使付きの官僚で母は一人実家で僕を産んだ。 父が僕を初めて見たのは、僕が二歳になって父が帰国した後だったらしい。 その後は母と一緒に父に付いて外国で暮らした。 日本に帰ったのは僕が十二歳日本では小学六年生の時だ。 僕は初めて日本の学校に通えると期待を胸に登校した。 でも友達は出来なかった。 理由は僕が他の子が出来る事が出来ず、出来ない事が出来た事・・ つまり、皆から見たら「変わり者」だったからだ。 考え方が違い、自己主張の仕方が違う、言葉は口から出ても相手の耳には届かない。 僕は段々誰とも話さなくなった。 そして事件は体育の授業があった後に起こった。 その日の授業はバスケットボール、僕が得意としたスポーツだった。 先生は二つのグループに生徒を分け、其をまた二つのチームに分けた。 それれらトーナメント式の試合を始めた。 当然僕がいたチームが一番になった。 先生は皆の前で僕を褒めてくれた。 先生に頼まれバスケットボールを片付ける。 良く見ると数が足りない。 あちこち探しやっと見つけて道具室にしまった。 その時だ、ガチャンと大きな音がした。 ドアに手をかけたが開かない。 鍵を掛けられていた。 バタバタと何人かの足音が遠ざかる。 「少しバスケが上手い位でいい気になるからだ」 そう笑う声が聞こえた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加