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「お前、また軽くなったんじゃないか?」
私を背負って、晃太郎が言う。
私が体を壊してからというもの、出掛ける時はこうして彼がおんぶしてくれる。
でもその話はしないでほしい。
痩せて色気がなくなったのは、自分が一番分かっているから。
言い返そうと息を吸い込んだ瞬間、晃太郎の匂いがわたしの鼻を擽って、途端にもうそんな事はどうでもよくなった。
落ち着く。この匂い。
ずっと前から知ってる香り。
眠気さえ襲って来る。
満たされた愛しさに任せて頬擦りすると、晃太郎は擽ったそうに笑って、首をひそめた。
昔からある石橋を渡り、信号のない横断歩道の上を歩く。
それからまたしばらく行くと、公園にたどり着いた。
晃太郎は入り口の車止めを器用に避けてその中へと進んで行く。
彼の足が止まった所で顔を上げると、わたしの目に飛び込んだのは、呼吸を忘れる程の満開に花開いた薄紅色の桜の木。
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