(2)人間(ネコ)失格

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(2)人間(ネコ)失格

或る日僕は、殺人を犯してしまった。不気味なくらいに薄暗く、狭い路地に、僕は突っ立っていた。 鋭く、太陽の光を反射して鈍く光る爪。鋭い牙。僕は、とんでもない事をしてしまった。と、のちに後悔した。 爪の先には今も滴り落ちる真っ赤な液体――血。 そして、歯と口の周りにはこびり付く血と肉片。不味くて吐き出すも、匂いに敏感な鼻だけはごまかせない。蝿が集るのを他所に、僕は身を引いた。 ――と、その瞬間。目の前に、一部だけ肉が剥がれ落ちている人が立ち上がった。まだ、生きていたんだ。僕は、殺人犯なんかじゃなかった。 けれど、ぼたぼたと血を傷口が吐いている状態で、その人はふらふらと僕に向かって、ゆっくりと歩いて向かってくる。 僕は恐怖を覚えた。 その人は、僕に、牙をむいた。爪をギラリと光らせ、飛び乗ってきた。そして、僕の耳を切った。少しの切り傷が残る程度だったが、悶えた。とてつもない痛みと恐怖。――そして不安。 近くで「にゃあ、にゃあ」と激しく鳴く声が聞こえる。とても近い場所だ。 これは、・・・・・・僕なのだろうか? * ――! 僕は真っ白な天井の下で目が覚めた。隣には、一部だけ肉が無い〝ねこ〟。 僕は手を見た。――肉球がある。 僕は足を見た。――肉球がある。 やっぱり、夢では無かった。 あの猫は、僕に〝猫だって教えてくれたヒト〟なのに。どうして、僕は・・・・・・。 ――ああ、僕は、〝猫失格〟だあ・・・・・・。
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