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ベンチの脇で置物の様にじっとしている猫は、生徒たちのアイドルらしい。
毛色は白がメインだが、黒いハート型のぶちが幾つもある。座った後ろ姿は
巨大なひょうたんのようだ。
昼休みには、生徒たちがきゃーきゃー言いながら、弁当のおかずを分け与えている。
ブラックハート。
彼らは単純に名前をつけた。
猫は環境が気にいったのか、10日程前からプラタナス高校に棲みついてしまった。棲みついたからといって、猫が悪さをするわけでもない。朝晩はどこかを放浪し、昼になるとどこからともなく現れて、食事を頂戴する。
だが、その猫の異常に気づいたのはアヤメだった。
「あのにゃん子ちゃん、いつもこの部屋を見てるんだよ」
「ああ、そう。たまにはラザニアかグラタンでも食べにいかないか。子供の頃見た映画でさ、ラザニアが好物のネコがいたぞ。ブラックハートもラザニア食うかな」
探偵局の局長、零門幹也(れいもんみきや)はジャケットに腕を通しながら言った。
「零門さん、ヘンなこと言わないでくださいよ。あたしは真剣なんですから」
「そうなんだ。で、何が、どうおかしいって?」
「あの猫って、首輪がついてるから、多分もと飼い猫ですよね。捨てられて、ここに迷いこんだ」
「そんなのはちっとも珍しくない。先を続けて・・・」
「はい。四、五日くらい前から、朝の9時、昼休みの鐘が鳴る10分くらい前、夕方の4時。だいたい決まった時間になると、ブラックハートが、事務所の窓を見てるんですよ。初めは偶然かと思ったのですけど、やっぱり、ほぼ同じ時間になると、ここの窓をじーっと見てるの。窓あけると、にゃあって啼くの」
アヤメはそこまで喋ると、長い髪をかきあげた。
彼女は23歳。すらりとした長身でスタイルがよい。零門とは海辺の町で、ある事件を契機に知り合った。事件の解決後、アヤメはアルパカ探偵局に転職した。
零門が黙ったままなので、アヤメは先を続けた。
「それが、今度はこの事務所の階の廊下に出没するようになったのよ」
「今度って、それはいつのこと?」
零門は興味をもったのか、来客用のソファの腰をおろした。
「きのうから。それがね、じっとしていて、ここから出はいりするお客さんの様子をうかがってるみたいなの。気味悪いよ、あの猫ちゃん」
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