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「野良猫、迷い猫、評判の猫、保健所に捕獲されている猫。そこの周辺地域の猫情報をかたっぱしから収集してくれ。SNSを使って」
零門はアヤメに指示をだすと、鈴本清二の住所の町名番地の検索をした。
該当する住所は<ラーメン鈴本軒>となっていた。
ブラックハートの実家は飲食店らしい。
ネット検索で<ラーメン鈴本軒>と打ち込む。
HPはなく、一般案内の営業時間と地図しか表示されない。
しかし、その店の利用者の声はあった。
ほとんどが商品の味の感想と盛りつけ写真ばかりだ。年老いた老夫婦がふたりで切り盛りしているらしい。
零門はパソコンをオフにして、腰をあげた。
「アヤメ、ネット検索は車の中で。出掛ける仕度して。これから<鈴本軒>へ行って、真意を確かめよう」
「え。マジで?」
「ああ。猫もいっしょに連れてくぞ。昼飯は<鈴本軒>で食おう」
「そのお店、遠いの?」
「そうだね、車で1時間くらいかな」
「了解。さあ、あんた、おうちに戻るわよ」
アヤメは猫の頭を撫ぜた。
4
長い橋を渡りきると、その先がC県F市だった。
田園と住宅地が混在したのどかな町である。
鈴本軒は、県道沿いにある小さなラーメン屋だった。営業を開始してから何十年も経っているような、古いくたびれた店舗だった。それでも真新しいラーメンののぼりだけは、風にゆらいでいる。
狭い駐車場が店の前にあった。昼時だが、止まっている車両はない。
零門は車を駐車場に入れた。
零門とアヤメが降りると、猫も跳ねるようにしてあとに続いた。
ラーメン屋の引き戸を開けると、元気のよい、女の声が響いた。
「らっしゃいませ!」
70歳くらいの小柄な女がふたりを迎えた。店の女将らしかった。
「だんだん、寒むうなりましたねえ」
言いながら、女将は早速お茶の用意をはじめた。
二人の客のあとに、白に黒いハート模様の猫の姿を発見した女将は、あっ、と声を洩らした。
「あれまあ、猫ちゃん!その猫、お客さんのですか」
「いいえ」
猫はすぐに、女将にまとわりついた。
にゃー、にゃーと啼き声を幾度ともなく繰り返した。
「え、まさか。ナツコ。どうして」
女将は猫を抱きあげると、頬づりした。
厨房のカウンターから年老いた男の顔がのぞいた。
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