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「いらっしゃいませ。何名ーー……あ、お客様!?」
店員さんの慌てたような声に顔を上げてみると、お客さんが店員さんの案内をスルーして店内に入ってきたところだった。
そのお客さんは何やら慌ただしく店内をキョロキョロと見渡している。
……って、あれ?
あのお客さんって……。
「(クーちゃんだ!)」
ニット帽にダテ眼鏡、マスクをした小柄な人。
手には大きなスーツケースを引いている。
あれは間違いなくクーちゃんだ。
……ちょっとイタズラ心が湧いてメニューで顔を隠しながらクーちゃんの様子を窺ってみる。
するとクーちゃんは小動物のごとく、不安げに店内をキョロキョロとし続けていた。
スーツケースを引いてちょっと奥の方に行ってみたり、トイレの辺りをウロウロしてみたり。
でも段々と可哀想になってきて仕方なく顔を出して手を振ってあげれば、途端にクーちゃんの顔がパッと輝いた。
……いや、マスクしてるけど。
マスクしてるけど、それでもわかるくらい表情がキラキラしているのが伝わってくる。
若干小走りで近付いてくるクーちゃんが可愛くて、思わず顔が綻んでしまった。
「アリベル!探したぞ」
「うん。見てたから知ってるよ」
「むー……相変わらずイジワルなんだな」
ちょっとふてくされたクーちゃんは、頬を膨らませながら僕の向かいに腰掛けた。
デカいスーツケースを横に置いて、マスクを外すと僕の水を勝手に飲み始める。
……なんか暑そうだ。
ちょっと息、あがってるし。
どーしたんだろ、なんて思ったけど、すぐにある可能性に思い至った。
……もしかして、クーちゃん。
「……僕に早く会いたくて空港から走ってきたとか?」
「ぶふっ!!」
盛大に水を噴き出し、むせ込むスーパーモデル様。
じゃなかった、世界のシン様。
今はマネージャーやお付きのスタッフがいないから、慌てて自分でダスターを駆使して後処理をしている。
……ま、クーちゃんだったらマネージャーがいても、自分で何でもやっちゃうんだろーけど。
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