とあるA氏の青春

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「……あの子が結婚したの、数年前だよね。同窓会に来ないから近況わからないけど」 「二年前に男の子出産して今は働きながら子育てしてるって言ってたぞ」 「…………ちょっと待った。なんでクーちゃんは近況を知ってるのさ」 「貰った手紙に連絡先書いてあったから。結婚祝いに何かプレゼントしたくて連絡とった。時々ラインしたりライブに招待するくらいしかしてないけどな」 「ハァ!!?ライブに招待してるの!?」 「おー。夫婦揃ってファンだって言ってくれてたから。まぁ子供が出来てからはさすがに招待してないけどな」 ……な、なにそれ。 クッキーにチョコペンでお絵描きしつつ、平然と言ったクーちゃんに唖然としてしまった。 ……僕は一度だって、ライブに招待されていない。 僕だってシン君のライブに行きたい。 でもチケットが超プレミアなのはわかっているし、僕は旦那として我儘を言える身ではない。 ……それとなく、ゴトーさんに関係者席の枠を聞いたことはあるけど。 クーちゃん自身が自由に配れるチケットの枠は、たった4席だけらしい。 で、僕を招待してくれないということは、クーちゃんはその4席を芸能界の先輩とかに譲っているんだろう、なんて思っていたんだけど。 「(元カノ夫婦を呼ぶんなら僕を招待してくれてもよくない!?)」 本当にクーちゃんの優先順位って謎だ。 てゆーかあとの2席は誰を招待してたんだろ。 まぁリヒト君とかセリアちゃんあたりかもしれない。 「……ふーん………クーちゃん、あの子とまだ連絡とってるんだ。随分と仲良さそうだね」 色々と気に入らなくて呟くと、チョコペンを持っていたクーちゃんの動きが一瞬だけ止まった。 ……クーちゃんが友達思いなのは知ってるけど。 相手は元カノだし、なんなら一番相性が良さそうな人だったってゆーのが僕としては複雑だ。 「卒業したらオレは芸能事務所に所属するって言ったから」 「……え?なにが?」 「別れた理由」 「…………。」 「ファンもできるだろうから、モデルとして活動していくなら彼女はいない方がいいと思う、ってあの子から言われて。 まぁオレも自分の復讐に巻き込むわけにはいかなかったし。 そんな感じでお互いに話し合って別れた」 「…………。」 「……なんだよ。理由、聞きたかったんじゃないのか?」 無反応な僕を見て、クーちゃんは再びクッキーに向き合うとお絵描きを再開させた。 ……話し合って別れた、って言った。 クーちゃん、どこまで元カノに話したんだろう。 さすがに身内の復讐のことは話してないと思うけど。
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