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「芸能界に入る理由とか、聞かれなかったの?」
「たぶん色々勘づいてたんだろ。その辺りは何も聞かれてない」
「……キィちゃんのことは、知ってるの?」
「知ってる。オレが話したから。本当は双子の妹がいたって話」
「……クーちゃんがそこまで話してたってことは、余程信頼してたんだ。その子のこと」
「信頼……とゆーか……単純に似た者同士だったしな。
オレは復讐に全振りする人生設計だったから自分の幸せなんて無いようなもんだと思ってたし。だから代わりに自分に似たあの子が幸せになってもらえたら嬉しいって考えてただけだぞ」
「…………。」
「まぁ、昔のユカリさんみたいなもんだ」
「……は?ユカリさん?」
ユカリさん……は、よくわからないけど。
確かに言われてみれば、元カノとクーちゃんは似た者同士だった。
自分より優れた双子の妹の存在。
なかなか無い境遇だし……
クーちゃんからしたら、ある意味特別な存在だったのかもしれない。
「(でも……クーちゃんの“特別”は僕だけがいいんだけど……)」
こんなのは僕のワガママだなんてわかっている。
僕は兄弟なんていないから、その辺りのクーちゃんの悩みには共感してあげられないし。
クーちゃんのお仕事の手助けが出来るわけでもない。
ただの平凡な幼なじみだ。
それでも“特別”を強請るなんて、僕のワガママでしかない。
「…………ん」
何やら無愛想な顔で、ぶっきらぼうに突き出されたお皿。
有無を言わさず突き付けられて、とりあえずそのお皿を受け取る。
そんな僕がただ呆然とお皿を手にして固まっていると。
「…………バレンタイン」
「……え?」
「…………アリベル、甘いの苦手だから」
「…………。」
「…………クッキー、焼いた」
「…………。」
「…………アリベルは……“特別”……だから」
何やらゴニョゴニョと話しつつエプロンを片付けると、クーちゃんは職場に配る用のトリュフを抱えてリビングへと逃げて行った。
……視線をお皿に移すと、お皿の上には色とりどりの手作りクッキー。
ナッツが入っていたり、ココア生地っぽいものだったり。
形も星型や……
「(……ユカリさん……)」
ウサギの形をして、わざわざチョコペンで顔まで描いてある物まである。
それにちょっと歪な、謎の形のクッキー。
……なんか青い。
部分的に青い謎クッキーの角度を変えて見てみると。
「(これ……僕の形?)」
なんかチョコペンでムスッとした表情にされているけど。
……クーちゃんの中の僕のイメージって怒っているイメージなのかな。
……よくわからない。
「(この丸いのは……何だろう)」
真っ白なプレーンの丸いクッキー。
クッキーの端に、チョコペンの汚れがついちゃってる。
まぁプレーンな丸いだけのクッキーがあっても……
「…………。」
いや、違う。
よくよく目を凝らして、気が付いた。
これはチョコペンの汚れじゃない。
真っ白な丸いクッキーの隅にチョコペンで小さく描かれた形。
……ハートマークだ。
すんごい控えめなハートマーク。
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