大切で、愛しい

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私は決して出来た人間ではない。 上手い具合に全てのことを回避して生きてきただけで、何故か他人に全て上手く自分に取り入れ、収束できるような能力を持っていると勘違いされて生きてきた。 その評価は今も変わっていないだろう。 そして、その評価は私のことを好きと言ってくれて、プロポーズしてくれた私の旦那となる男にもそう思われているに違いない。 否定はしないでおく。その方がいいから。生きやすいから。私のような人間が反抗すると余計なボロが出て、あえて混乱を招くだろうから。 でも、このままではいけなかった。 私の大切な人の評価がこんなに私の心を抉るのに、何故私はここまで我慢しなくてはいけないのだろうか、と思った。 無言を貫くことは、肯定と捉えられるわけだ。 私の大切な人の悪口とも取れる陰口をこうして黙って聞いている私は、反論しない限りその意見に同意していると思われてもおかしくない。例え、無表情だとしても。 もう我慢できない。 今までの私の評価が覆ったとしても、黙っていられない。 「妹は、必ずウエディングドレスを完成させるよ」 大好きな妹の陰口なんか、聞きたくない。 これから一生共にする相手でも許せない。これだけは許せない。今の自分の定位置を退いてでも。 旦那の表情が曇った気がした。 今まで一切反抗しなかったからだろうか。私がこんなに真剣に意見することがなかったからだろうか。 私は夫を献身的に支える妻ではないのだ。そう見せているだけだ。 ああ、壊れる。嫌だ。私が結婚することで今まで少しずつ積み上げてきたもの全てが壊れていく気がする。結婚というのは、これほど自分を押さえつけなければいけないのか。 上手く生きるには、干渉しないことだ。 生きていく範囲が広くなるにつれて、要素が薄くなっていく。間違っていない。正しいのかもしれない。全てに手を伸ばす時間なんてない。 ――私は、私と正反対の妹の生き方が、とても羨ましい。 全ての行動に意味があって、自分のテリトリーから出ることなく、その深く狭い範囲は薄まることなどない。昔からこういう芸術よりの生き方に憧れたんだ。 そんな妹が私は、とても大切で、愛しい。
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