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調子に乗った私が交通事故にあったのは、居酒屋で姉と飲み交わして2ヵ月後のことだった。 事故の原因は軽自動車を運転する40代女性の信号無視だった。衝突し、体が宙を舞い吹っ飛んだらしい。地面に叩きつけられた際に意識を失い、気付けば病院にいた。 鞄がクッション代わりになり最悪の事態は免れたが、手首の骨折、足首の捻挫は避けれなかった。 目覚めると、ベッドの上にいる私を心配そうに見つめる母と、姉がいた。 昔から運動が好きで毎日のように擦り傷を増やす生活をしていた小学生時代だが、救急車で運ばれる体験などしたことはなかった。未知の空間だったのに。 まさかここにきてあのサイレンを私が鳴らすとは。 でも、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないけど、どうでもいい。 下手したら、頭を強く打って記憶障害になる可能性だってあったはず。 起きた瞬間そんなことはない、今までの自分だ、生きてる。そうすぐに確信したのは、事故に合った前日のことを思い出したからだ。 ――姉のウエディングドレス製作、まだ全然進んでないのに。 徹夜だった。気付いたら朝だった。 徹夜なんてしなければ、事故に合っていなかったのかもしれない。自動車と衝突する前、ちょうど眠くてあくびをしたんだ。視界もぼやけていた気がする。赤が青に切り替わる前に、足を踏み出していたかもしれない。ちゃんと車が通り過ぎるまで渡らなければよかった。 ちゃんと睡眠をとっていれば、眠気もなく、視界もクリアで、青になるのも確認して、信号無視の車に対応できて、注意力散漫にならなかったのかもしれない。 後悔先に立たず。まさにこれ。 姉の顔を見れない。本当に心配してくれているんだろうか。 その時ふとよぎった。 姉は私の心配より、ウエディングドレスの心配をしているんじゃないだろうか。私の手が使い物にならない今、数ヵ月後に迫る人生の一大イベントの、さらに一番大事な衣装問題が浮き彫りになる。 ちらっと、姉を見ることにした。 でも、見なきゃよかった。 姉はただ、無表情で私の包帯でぐるぐる巻きにされている折れた右手を見ていた。
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