【ぼくとあの娘と機械の龍】

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 そう。  驚くべきは、それらの動力には核燃料が使用されているであ ろうにもかかわらず、今こうして地表に立つ夏美や松島達の身 体には何ら危害も加えられず、生命が維持されているという事 だった。  松島が軍の所属部隊から支給された、小型の線量測定装置を 携帯していたのだが、そのディスプレイはブルーのランプが点 灯し、CLEARの文字を表示している。  それはこの辺り一帯の空気が清浄である事を示す表示だっ た。  その表示を確認した後、地面を削るようにして徐々に接近し て来る2体から少しでも離れようと、松島は気力を振り絞り、 夏美と拓斗の身体を引きずりながら一気に坂を下って行った。    広い道路に飛び出し、さらに2体から遠ざかろうとひび割れ たアスファルトの上を走って行く。  途中からは、体力的に限界を迎えた拓斗を背負って の逃走だった。 「全く、どうなってるんだ?あいつの中……あれを操作してい るパイロット、中にいるのか?」  迫りくる光景に青ざめた表情を見せる夏美と拓斗のそばで、 松島は軍人として毅然とした態度を保ちつつも、その不可解な 状況に呻き声をあげていた。  松島が始め受け取った情報では、基地内において暴走した機 体は、搭乗しようとしたオペレーションパイロットを 拒絶し、内部コア内にてこれを殺害。  遺体を射出した後、格納庫の天井を破壊して飛行逃走したと いう事だった。 「連絡に間違いがなければ、あいつは今、無人で動いている ……誰も、あいつを動かしちゃいない。アイツの意思で動いて るんだ」  対峙している2機の機体のエンジン音が徐々に低下してい く。  その様子を見上げる松島。  更にその様子を、夏美が側からじっと眺めていた。 「あいつの中に搭載された人工知能は……自己判断能力を得る レベルじゃ無い筈だが」  松島は首を捻りながら呻いた。  対峙している2機のカメラアイが点滅をはじめ、それぞれの 頭部に小さなスパークが飛び交った。  そして、完全に沈黙してしまった松島のテレヴァイスの画面 もまた、光が点滅を繰り返し始めた。  そこから、何者かの音声が聞こえてきた。  外部スピーカーを使用しているものと思われたが、ここまで 離れた距離にあって、それは耳元で囁かれているような感覚を 伴って聞こえた。  聞きなれない言語。  音声の発信源は銀色の機体であり、その搭乗者と考えられ た。
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