【ぼくを呼ぶ声】

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 当時は「異星人による集団誘拐事件」と噂されていたが、無 論真相は判らず仕舞いで警察及び軍部までもがお手上げとな り、最終的に未解決とされた事件だった。 (これは……調べてみなくちゃいけないかもね)     そして無言になり、テーブルに突っ伏すと記憶の底から何か を探し出そうとする夏美だった。  その様子を見た拓斗は無言のまま席を立ち、朝食で使った食 器をキッチンに運び、食洗器の中に突っ込んだ。  そして戻ってきた拓斗は、脱力状態になっている夏美に声を かける。  「ママ。僕もそろそろタケちゃんの家に行くよ。昨夜言っただ ろ、約束してるって」 「ああ。そうだったわね。けど……んん、まあいっか。今の状 態であれこれ心配してもね。ただし、何かあったら直ぐに帰っ て来るのよ」  拓斗に声を掛けられた夏美はどうにかその身体を起こすと、 きちんと息子と向かい合った。   「それとね、拓斗。実はママもこれから用事があって、少し出 掛けるの。夕方までには帰って来るつもりだけどね。そうだ、 途中まで送って行ってあげる」  夏美も、自分自身の仕事を持つ身である。自身が抱える責任 は果たさなくてはならない。  夏美は頬杖を突き、拓斗に向けアンバーカラーのコンタクト をした瞳でウインクをする。 「やった。ママのバイクに乗せて貰えるんだね!」  拓斗は喜び一杯で頬が紅潮し、瞳がキラキラしていた。  夏美はこう見えて大型自動二輪、通称限定解除免許の所有者 だった。 「はい。それではタケちゃんのお家に連絡を入れ、キチンと出 掛ける準備をしてガレージに集合する事」 「ラジャー!機甲戦隊所属、桐生拓斗、出撃準備入ります!」  夏美は椅子から立ち上がり、命令口調で話す夏美に対し、拓 斗はテレビドラマの敬礼で返事を返した。   「はぁ?何時からあんたは防衛軍に入隊したのよ?」 「えへへ。このセリフ、カッコいいから言ってみたんだ」  拓斗は元気よく答えると言われた通り仕度をする為に、ダイ ニングから飛び出して行った。  何時の間にやら夏美の気分も元に戻っていた。そし て着替えをする為自室に向った。  
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