【空から来たもの。そしてぼくは】

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 それから20分ばかり経った後。  拓斗は自分用に買ってもらった、淡いブルーのレザージャケ ットに身を包み、両サイドに狼のエンブレムが入ったヘルメッ トを抱え、家のガレージ前へとやって来た。  そこにはクリムゾンの皮つなぎを着用した夏美が、小気味の 良いエンジン音を立てているオフロードタイプの愛車に跨って いた。  被っているヘルメットは上品な感じのゴールドカラーで、黒 い薔薇のマークがお洒落を演出し、その真後ろの端からは小さ なポニーテールが覗いている。  バイクの前で拓斗はヘルメットを被り、母親に再度敬礼のポ ーズを取った。 「拓斗、出撃準備整いました!司令官」 「OK。ではいつも通り後ろに乗って。しっかり掴まってるの よ。ここいらの道はちょっと悪路だからね」    通信用のデバイスを通じ、ヘルメット内のスピーカーから夏 美の声が聞こえてくる。  拓斗は器用にバイクの後ろによじ登りシートに跨る と、思いっきり夏美の、くびれ具合が素晴らしい腰に腕を回し てしがみ付いた。 「いい?じゃあ、行くよ!」 「いやほほーーい!」  軽快な走り出しで、夏美の運転するバイクは緩い坂道を下っ て行った。  夏美の運転するバイクは、大きなイチョウの木が両脇に並ぶ 県道を軽快に、街の中心部を目指して走っていく。  だが、まずはその途中で拓斗を友人宅の前で降ろして やる必要があった。 「ところで拓斗、タケちゃん達と宿題の相談って、今まで何を するのかは決めて無かったの?」  インカムから、やや呆れ気味の口調で夏美の声が聞こえてく る。 「うん。でも、大体は決めてあるんだ。みんなで協力して自作 のゲームを作ろうって」 「へぇ。それは面白そうね。完成したら、是非ママにもプレイ させて」 (さすが、技術屋の息子だわ……)  夏美は運転しながら、息子の成長をこの様な所でも感じ取っ ていた。 (あ~あ。最終的には、ぼくに面倒な部分を全部押し付けて来 るんだろうなぁ)  夏美の後ろのシートで、彼女にしがみついている拓斗が胸の うちでそう呟いていた。    バイクは順調に、坂下の区画を目指して走り抜けていった。  先程まであれほどよく晴れていた空が、急激に曇り空に変わ り始めていた。  風も強く吹き始め、街路樹の葉がざわめきを上げ始めてい た。 「やだ……雨が降らなきゃいいんだけど」
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