【ぼくとあの娘と機械の龍】

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 暫くノイズが流れ聞き取れない状況が続いたが次の瞬間に は、はっきりと夏美や松島にもその内容が理解する事が可能と なった。 《あれが……プロトタイプ?あははは!こんなところで出会え るなんてね!》 「な、何だ?あの中であれを操作している奴って、女なの か?」  デヴァイスから流れてくる音声に、松島が若干の驚 きを見せた。  そして夏美と拓斗の状態を気遣いつつ、舗装された道路を越 えたあたりで後ろを振り返る。  機体搭乗者と思わしき音声が聞こえてきた後、銀の機械龍が その巨体をもう1体……黒龍のボディに掴みかかり、それを引 きずるようにして移動を再開した。  敵対する白銀の機体に頭部を抑え込まれ、今にもへし折られ そうになった黒龍は機体背後のバーニアを全開にして抵抗す る。  放出される高温の空気が摩擦を起こし、その影響によって周 辺の樹木から黒煙が立ち昇る。  金属と金属が激しくぶつかり合う音が響き渡り、二つの巨体 がどんどん移動し近づいてきた。  立ち止り息を整えている最中の夏美、松島達もその姿をはっ きりと視認出来るほどの距離だった。 「クソ……救援隊の奴ら、何してるんだ?まさか……」  合流予定地点はここからそう遠くはない筈だった。  だが、とっくに到着してもいい筈だというのに辺りには車1 台、誰一人として姿が見当たらなかった。  心臓の鼓動が早鐘を打ったようになる。  はるか向こう側に目を凝らすと、沿岸部に並ぶ工業地帯で黒 煙が立ち上っているのが確認出来た。  さらに市街地からも火の手が上がり、あちらこちらに消防隊 が出動しているものと思われた。 「先輩……どうか、無事でいてくれ!」  拓斗を休ませる為に歩道のわきに降ろした松島は、拳を握り しめ唇を噛み締めた。  その様子を見た夏美もまた、項垂れて言葉を失う。  周囲には合流すべき仲間の姿は見当たらない。  かといって……その場に留まっている事も出来なかった。 「行こう……もう少し先で待っているかも知れない」  松島は夏美、拓斗の手を取りその場に立ち上がらせると、視 線をもって移動を促す。  疲れ切った様子の夏美と拓斗だったが、それでも歯を食いし ばり立ち上がる。そして黙って松島の後に従った。  松島に向けたその視線、瞳の煌きが彼女に中に諦めの気持ち が無い事を物語っていた。
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