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「…留学ですか?」
「ああ、交換留学ね。
倍率は厳しいけど、応募してみないか?
自薦の方が有利だから」
珍しく教授に呼び出されて何を言われるかと思えば、それは予想外の話だった。
「……」
「楢崎なら喜んでくれると思ったけど。
まさか、そんな微妙な顔をされるとはな」
大学に入学して二カ月半ばが過ぎた。
受験に解放されたばかりの大学生なら、心置きなく楽しいキャンパスライフを送っている頃だろう。
しかし、それができるほど俺に余裕はなかった。
普通の私大文系、しかも、入りたての大学一年生が時間に押し迫られることなんて早々あるわけないと思われがちだろうが、自分の大学に”普通”の文字は通用しないので、仕方がないことである。
むしろ、その”普通”ではない魅力に惹かれて志望したのだから、文句は言えない。
入学してすぐに研究が始まった。
その合間に居酒屋でのアルバイトも始めた。
バイトをしようと思ったのは、今のうちにある程度稼いでおいて、秋以降、何かあったときにバイトを休んでも困ることのないようにしたいという思いがあったからだ。
それは想像以上にきついものだったけれど、自分で選んだことに妥協だけはしたくなかった。
葉瑠とは時間を見つけながら会っていたけれど、これが中々難しくなっていた。
彼女は優しいから、会う回数や時間が減っても、文句を言うことはなかった。
むしろ、俺の体調を気遣ってくれて、「無理しないで」と、いつも気にかけてくれていた。
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