7人が本棚に入れています
本棚に追加
ごく稀に、前世の記憶を持った人がいる。私もそんなごく稀な1人だ。
でも私は、自分の前世を誰かに話そうなんて思わない。英雄などと呼ばれていた自分の前世なんて……。
――――私はこの場所が嫌いだ。
この場所には思い出があり過ぎる。前世の記憶とかは関係ない。私の今の人生においての思い出だ。
嫌いなはずのこの場所に、私は気がついたら足を運んでいる。
瞼を閉じると思い出す。この場所にはかつて、私が店長を務める飲食店があった。
まだ20代の女性でありながら、店長という大役を任され、毎日があっという間に流れていく。充実していた。
私のお店は小さいながらも繁盛しており、常連のお客さんも多い。名前までは流石に覚えきれてはいないけれど、ほとんどが見知った顔。
また、私を支えてくれる従業員もいた。学生、フリーター、パート、様々な年代の人達。私の大切な仲間で、家族同然だった。
みんなにまた会いたいなぁ。
でもそれはもう叶わない。
時折吹く風は、潮の香りを運んでくる。
目を閉じていても、その香りは私に現実を突き付け、幻想から叩き起こす。私はその潮の香りで反射的に目を開けた。
目を開けると 、そこには何もない。ただ瓦礫が散乱していた。
最初のコメントを投稿しよう!